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  • 2016.06.21 Tuesday
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店番日誌ディープ・おかやんへの贈り物

こんにちは、店番です。
今日、とうとうエシレのバタークリームのケーキ、食べました。
ネットで見かけ、そのバタバタしい外見に一度で魅せられたケーキです。
だけど、高価な値段と、想像もしたくないカロリーに、ぐっと涙を飲んでいたケーキです。
友人達とシェアすると言う事で、それを食べましたよ!
美味しかったです。
半世紀生きて、これでまた一つ、思い残す事が消えました。
ああ、なんて禍々しいまでにバタバタしい・・。

さて、先日、おかやんと食事に行きました。
ニヒル牛2の若スタッフ達も一緒の、軽い忘年会。
おかやん81歳はひさびさに隣りに座ると、なんだかとても小さいです。
人は、縮んで行きます。
「最近、食べられないんだよ」と。
確かに、食もかなり細くなっていて、それでも大好きなパンは真っ先に二つたいらげておりましたが。
「おかやん、追加頼みますか?」とヒロカに聞かれ「ううん、これ食べるからいい」と私のお皿から、パンを取ってもいましたけど。
体力だけじゃなく、記憶力の衰えとかも当然あって、ヒロカに何度も同じ事を聞いたりしています。
それでも気力は強いです。ニヒル牛の今後の事とかにも新しい意見があり、それはちょっと私には無かった発想でした。
身体が続く限り、おかやんに店番は続けて欲しい。それを目当てに来て下さるお客さんも多いしね。
そんなおかやんが、食事の途中で突然私達に言いました。
「あのね、私、すごい素敵なのもらったの」
へえ、珍しい。おかやんは意外に趣味がうるさい。すごく素敵なんて滅多に言わないのに。
そう言いながら、私達に嬉しそうに見せたのは、一度開いてまた包み直したらしき赤い包装紙のプレゼント。
「すごくきれいなのよ」
手に取って(あれ、これは・・?)と。
包みを開いてみたら、やはりそれは本でした。
意外だ。
本なんだ・・。
ケースに入ったハードカバーの本は、夏目漱石の「心」
送り主が姉の恋人である事は、すぐに分かりました。他に、おかやんに本を贈る人なんていないから。
すごく気に入った贈り物なんて、当然スカーフとかブローチとか、身につける物だと思っていた。
私達姉妹がおかやんに送る時は、かならず、そういう装飾品を選んでいたから。
おかやんがきれいだと言う「心」は、表紙に骸骨が書いてあって古い漢字が銀で書かれた、きれいというよりはかなりモダンな装丁でした。
この感じはもしかしたらと確認してみたら、やはりそれは、祖父江慎さんの作品。
「うん。すてきだね。祖父江さんだ」
「そうでしょ、この人、ほら、夏目漱石と並んでいる」
おかやんは、夏目漱石と並んで書かれている、祖父江慎さんの名前を指差します。
後から姉に聞いたら、おかやんは失礼にも、何かで見た祖父江さんを「かわいそうに」と思ったそうです。日本を代表する装丁家の何がかわいそうなんだか知らないけど。
「知ってるよ。この人の事は、ヒロカだってナナコだって知ってる」
「そうなの」
「そうか、祖父江さんはSさん(姉の恋人)と縁が深い人だもんね」
祖父江慎さんの、確か最初の作品がSさんのレコードの装丁だったはずだ。
「そうなんだってね。私ね、新聞で心が連載していたから、全部切り抜いてたの」
それに厚紙を貼って、取って置こうと思っていたらしい。
「へえ、今さら、連載なんてしてたんだ」
「そうだよ。だけと、もうこれがあるからね」
私だって『心』は、はるか昔に読んだけど、そんなに好きな小説では無かったな。
おかやんは、本を包装紙に包み直そうとして、だけど老人だから間違えて、自分の膝の上の紙ナプキンで包もうとして「おかやん、違います・・」とヒロカに遠慮がちに訂正されていました。
「宝物だよ」
もう一度、今度はきちんと包み直された赤い包装紙を見て、きっぱり言います。
そうか・・。
「よかったね」
眼だって見えづらくなっていたおかやんを、私はもう本は読まない人と決めていた。
あの小説の、どこにおかやんがひかれていたのかは分からない。
姉の恋人には、私達が見えなくなっていたおかやんが見えたのだな。
人生にかかわる人が増えて行くと言うのは、こういう瞬間があるという事なんだ。

クリスマスまではまだ少し日にちがあった、2014年12月の夜。





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  • 2016.06.21 Tuesday
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  • 15:41
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コメント
メリークリスマス。よい話をありがとうございました。最後の5行目から2行目あたりで落涙
ありがとうございます。
こういうのを書くとき、多分これを痛く感じる人もいるのだろうなと、いつも思います。
だから、よかったと言って貰えると嬉しいです。
  • ニヒル牛 ある
  • 2014/12/24 10:33 AM
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プロフィール


石川ある
いしかわある 西荻窪 ニヒル牛・ニヒル牛2オーナー 埼玉県所沢市出身。ニヒル牛2では、今『旅の本展』開催中!

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